「飲んでも飲んでも頭痛が治らない」「薬の量がどんどん増えていく」——それは薬剤使用過多頭痛(MOH)かもしれません。私の外来では、実は単純な反復性片頭痛は2割程度で、多くの方がMOHに至った状態で来院されます。この記事では、MOHと診断された後に実際にどうやって治していくのか、私が日々の診療で行っている治療の流れをお伝えします。
薬を月に何回飲んでいますか?
まず記録から始めましょう
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- ✅ MOH治療の核は「2ヶ月間の完全断薬」。つらいが、乗り越えれば楽になる
- ✅ ゲパント製剤(ナルティーク)の登場がゲームチェンジ。断薬中の「お守り」になる
- ✅ 薬だけでなく、メンタルケアと「伴走」が治療の鍵
- ✅ 頭痛記録(ズツノート)はMOH患者全員に義務。自分を知ることが治療の大前提
目次
MOHに至るまで——よくある「熟成」のパターン
私の外来にMOHで来院される方には、共通のパターンがあります。
- 最初は市販の鎮痛薬(ロキソニン、EVE等)で頭痛を抑えていた
- だんだん効かなくなり、内科を受診してロキソニンを処方してもらう
- それでも不十分で、脳神経内科や脳神経外科を受診。MRIで異常なし、トリプタンを処方される
- トリプタンで一時的に改善するが、使用頻度がどんどん増えていく
- 気づいたら月に15日以上薬を飲んでいて、毎日のように頭痛がある状態に
- そうやって「熟成」されたMOHが、ようやく頭痛専門外来にたどり着く
この流れに心当たりはありませんか? 頭痛薬が効かなくなった理由の記事でも触れていますが、MOHは「真面目に頭痛を治そうとした人」がなる病気です。決してあなたが悪いわけではありません。
私の患者さんで「ただの反復性片頭痛」は実は2割程度。多くの方がMOHに至った段階で来院されます。でも、そこから一緒に治療していくことで、皆さん笑顔で次の外来に来てくれます。だから、遠慮なく相談してほしいのです。
MOH治療の全体像:絡まった糸をほどく
私はMOHをよく「絡まった糸」に例えます。
MOHに至る患者さんは、単に薬を飲みすぎたのではありません。もともとの片頭痛、緊張型頭痛、ストレスや不安、生活習慣の乱れ——いろいろな要因が複雑に絡み合った結果がMOHです。だから、MOHの治療だけ、片頭痛の治療だけしても、糸はほどけないのです。
治療の方針はこうです:
- まずMOHの糸をほどく(=断薬)
- 次に片頭痛の糸をほどく(=予防薬で発作を減らす)
- その他の糸もほどく(=ストレス、睡眠、メンタル、生活習慣の改善)
この「順番」が大切です。MOHが残ったまま片頭痛の治療をしても効果が出にくい。だから最初に断薬をする。つらいけれど、ここが治療の最も重要な一歩目です。
2ヶ月間の断薬——最もつらい、でも最も大事なステップ
MOH治療の核は「2ヶ月間の完全断薬」です。
「週2回までなら許容しても改善する」というエビデンスもありますが、私は完全に2ヶ月間断薬させます。理由は、中途半端に飲むと再発率が上がるためです。つらいですが、きっちり断ち切ったほうが結果的に楽になります。
断薬の2ヶ月間で起こること
| 時期 | 状態 | 対処 |
|---|---|---|
| 最初の3日間 | 反跳性頭痛のピーク。薬で抑えていた痛みが一気に噴き出す。最も激烈な頭痛 | 予防薬の効果はまだ出ていない。非薬物療法+ナルティーク(後述)で耐える |
| 1〜2週目 | 頭痛は続くが、ピークは超えている。吐き気・倦怠感を伴うことも | 予防薬が徐々に効き始める。メンタルケアが特に重要な時期 |
| 2週〜1ヶ月 | 人によってはこの頃から「あれ、楽になってきた」と感じ始める | 断薬前よりも頭痛が減ってきたことを頭痛記録で実感する |
| 2ヶ月後 | 断薬完了。頭痛のパターンが明確になり、本来の片頭痛や緊張型頭痛が見えてくる | 頓服薬のルールを再設定。ここからが「糸をほどく」次のステップ |
断薬中に使えない薬
- NSAIDs(ロキソニン、イブプロフェン、ナプロキセン等)——すべて禁止
- アセトアミノフェン(カロナール)——禁止
- トリプタン(スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、ナラトリプタン)——すべて禁止
- 複合鎮痛薬(EVEクイックDX、ナロンエース、セデス等)——禁止
- カフェインを大量に含む薬・飲料——極力控える
つまり、「痛い時に飲める薬がほとんどない」のがMOH断薬の現実でした。ここに大きな変化が起きました。
断薬中の武器:ナルティークというゲームチェンジャー
従来のMOH治療では、断薬中は「ただただ痛みを我慢する」しかありませんでした。しかし、ナルティーク(リメゲパント)の登場で、状況が一変しました。
ナルティークはゲパント系(CGRP受容体拮抗薬)というまったく新しい種類の薬で、海外の長期試験ではMOHの発生が「観察されなかった」と報告されています。つまり、ナルティークはMOHを引き起こしにくいのです。
私の診療では、断薬中の患者さんにナルティークを「お守り」として持たせています。
- 1錠約2,923円(3割負担で約880円)と高額なため、頻繁には使えない
- しかし「本当にどうしようもない時には飲める薬がある」という事実だけで、患者さんの安心感がまるで違う
- 実際に使わなくても、お守りとしてバッグに入れているだけで断薬を乗り越えられる方も多い
ナルティークの詳しい情報はナルティーク(リメゲパント)の効果・薬価・使い方、薬価一覧をご覧ください。
予防薬の併用
断薬と同時に予防薬を開始します。断薬だけでは患者さんが持たないため、予防薬で「土台」を作ります。
- バルプロ酸(デパケン)、アミトリプチリン(トリプタノール)など従来の予防薬
- 頭痛の頻度が非常に多い場合はCGRP注射薬(エムガルティ、アジョビ等)も検討
- 2026年4月発売のアクイプタ(経口の予防薬)も選択肢に
ナルティークの登場は本当に大きかった。以前は「2ヶ月間、何も飲めません」としか言えなかったのが、「どうしてもの時はこれがあるよ」と渡せるようになった。患者さんの表情が全然違います。
断薬を乗り切る工夫:薬以外にできること
薬が使えない期間だからこそ、非薬物療法が活きてきます。私の外来で実際に指導しているものを紹介します。
ロキソニンゲルマッサージ
「ロキソニンは飲めないけど、塗るのはOK」。ロキソニンの外用ゲル(ロキソニンSゲル等)をこめかみや首の付け根に塗布しながら、指先で円を描くようにマッサージします。
- 内服と違い全身への吸収はごくわずかなため、MOHの原因にならない
- 意外に評判が良い。「塗ると少し楽になる」「何かできるだけで安心する」という声が多い
- マッサージ自体のリラックス効果も大きい
頭痛体操・耳の体操
首・肩の筋緊張を和らげ、頭部の血流を改善する体操を指導します。緊張型頭痛を合併している方(MOH患者に多い)には特に有効です。
鍼灸
エビデンスに基づく鍼灸治療は、断薬中の頭痛緩和に一定の効果があるとされています。薬に頼らない選択肢として、積極的に紹介しています。
生活習慣の見直し
断薬中に特に気をつけること
- 睡眠:毎日同じ時間に起床。寝すぎも寝不足もNG
- 水分:脱水は頭痛を悪化させる。1日1.5〜2リットルを目安に
- カフェイン:急にゼロにすると離脱頭痛が起こる。段階的に減らす
- 食事:空腹は頭痛のトリガー。3食規則正しく
メンタルケア:一番大事なのは「伴走」
MOH治療で最も重要なのは、実はメンタルケアです。
MOH患者さんには、うつや不安を合併している方が多いです。毎日頭痛に悩まされ、薬を飲んでも治らず、どこの病院に行っても「異常なし」と言われ——そんな経験を何年も続けてきたのですから、精神的に消耗するのは当然です。
「失敗しても怒らないから、必ず次も来てね」
私が断薬を始める患者さんに必ず伝えるのが、この言葉です。
断薬は簡単ではありません。2ヶ月間、一度も鎮痛薬を飲まずに乗り切れる人ばかりではない。つい飲んでしまうことがあります。問題はそこではなく、「飲んでしまったから先生に合わせる顔がない」と思って外来に来なくなることです。
外来に来てくれなくなったら、私は何も治療してあげられない。だから、「失敗しても怒らないから、必ず次も来てね」と約束します。そして実際に、怒ったことは一度もありません。
大切なのは、一人で戦わないこと。MOHの治療は、患者さんと医師が一緒に歩む「伴走」です。つらい時に「つらい」と言える場所があること。それだけで、断薬の成功率は大きく変わります。
一緒に伴走して治療していくことで、皆さん笑顔で次の外来に来てくれます。「先生、今月は薬を3回しか飲まなかったよ!」と嬉しそうに報告してくれる。その瞬間が、この仕事をしていて一番嬉しい時です。
断薬が終わったら:頓服薬との新しい付き合い方
2ヶ月間の断薬を乗り越えたら、いよいよ頓服薬を再開します。ただし、以前と同じ飲み方は絶対にしません。
断薬後のルール
| ルール | 具体的な基準 |
|---|---|
| 頓服薬は週2回まで | 月に換算すると8〜10日程度。これを超えるなら予防薬の見直しが必要 |
| 薬の種類 | トリプタンを中心に。ロキソニン等のNSAIDsは補助的に |
| 複合鎮痛薬は原則禁止 | EVEクイックDX、ナロンエース等のカフェイン・鎮静成分入りは避ける |
| 記録の継続 | 月間の薬使用日数をズツノートで常にモニタリング |
この「週2回ルール」を守れている限り、MOHの再発リスクは大幅に低下します。逆に、ルールを超えそうになったら「もう一度断薬が必要かも」という早期アラートとして機能します。だからこそ、記録が重要なのです。
ズツノートの義務化:自分の頭痛を「知る」ことが治療の大前提
私の外来では、MOH患者さん全員に頭痛ダイアリー「ズツノート」を義務化しています。
「義務化」というと厳しく聞こえるかもしれませんが、理由は明確です。
- 自分が月に何回薬を飲んでいるかを正確に把握できていない方がほとんど(聞くと「4〜5回くらいかな」と答えるが、実際に記録すると15回だったりする)
- どんな時に頭痛が起こるかのパターンが見えないと、予防の戦略が立てられない
- 断薬の効果を客観的に確認できる(「前は月20日痛かったのに、今は月5日に減った」)
- 記録を主治医に共有することで、診察が格段にスムーズになる
頭痛記録アプリなら月間の服薬回数を自動カウントしてくれるため、「いつの間にか月10日を超えていた」を防げます。
MOHは治る病気です。ここまで読んでくださったあなたは、すでに治療の第一歩を踏み出しています。一人で抱え込まず、ぜひ頭痛専門医に相談してください。当院のオンライン頭痛外来でも、MOHの断薬プログラムについてご相談いただけます。一緒に糸をほどいていきましょう。
片頭痛の全体像(症状・原因・種類・治療法)については片頭痛(偏頭痛)とは?症状・原因・種類・治し方もご覧ください。
📝 MOH治療の第一歩は「自分を知ること」。まずは頭痛と薬の記録から始めましょう。
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