月2回以上の片頭痛や生活に支障がある場合に検討すべき「予防療法」の種類と選び方について、専門医が解説します。
- ✅ 始めどき:月2回以上の片頭痛、または生活に支障する頭痛が月3日以上で予防薬を検討。
- ✅ 12週評価:まず3か月で有効性/副作用を判定。合わなければ用量調整・切替・併用を考えます。
- ✅ 内服で改善なければCGRP注射薬:月1回(製剤により12週ごと)の注射薬も選択肢です。
- ✅ 慢性化の予防:予防薬は慢性片頭痛への移行を防ぐ狙いもあります。
予防は「頻度を減らす/頓用に依存しすぎない」ための長期戦。12週の評価と日誌の継続が成功のカギです。急性期の正しい対処は片頭痛の急性期治療【決定版】もご覧ください。
予防治療の全体像(慢性化を防ぎ、頓用依存を下げる)
予防治療は発作の回数・重さ・持続を減らし、頓用(急性期)薬への依存を下げる長期戦です。特に慢性片頭痛(月15日以上の頭痛)はMOH(薬剤の使用過多による頭痛)の合併が多く、予防薬の導入が有効です。
(関連:慢性片頭痛の概要と治療、薬剤使用過多による頭痛(MOH))
予防薬を始めるタイミング
開始の目安
- 月に2回以上の片頭痛発作がある場合
- 生活に支障する頭痛が月3日以上ある場合
どちらかに当てはまれば予防を検討します。発作の頻度や回数の把握だけでなく、治療効果の確認も頭痛日誌の記載を推奨します。当院では、評価と回数の記録をオンライン頭痛日誌を使用しています。こちらで直近30日間の発作頻度や強さなどを把握し、診療に役立てています。
使い方と評価のルール(12週・目標設定・日誌)
- 目標:頭痛日数↓/頓用回数↓/QOLの回復
- 評価:12週(約3ヶ月)で有効性・副作用を判定します。忍容性(副作用に耐えられるか)を見つつ用量調整・切替・併用を行います。
- 記録:頭痛・頓用・副作用を日誌で定量化し、次回の作戦に活かします。
- 急性期との役割分担:発作時は適切な急性期治療を用いつつ、回数管理を行います(詳細は片頭痛の急性期治療【決定版】)。
第一選択の予防薬(特徴・使い方・副作用・相性)
スマホの方は表を横にスクロールしてご覧になれます。
| カテゴリー | 代表薬 | 使い方(目安) | 相性が良いタイプ | 主な副作用 | 妊娠/授乳 |
|---|---|---|---|---|---|
| Ca拮抗薬 | ロメリジン (ミグシス) |
少量開始、1日2回で調整 | 肩こり/血管性要素が強い、入眠良好 | 眠気、ふらつき、ほてり、浮腫 | 妊娠:禁忌 授乳:慎重 |
| β遮断薬 | プロプラノロール ほか | 少量開始、脈・血圧を見て調整 | 動悸/高血圧合併、緊張で誘発 | 徐脈、倦怠感、四肢冷感 | 妊娠:慎重 授乳:少量移行に注意 |
| 抗てんかん薬 | バルプロ酸 トピラマート |
少量から漸増 | (バ)体重増/躁うつ合併なし (ト)体重減らしたい、過食抑制 |
(バ)体重増・肝機能 (ト)しびれ・食欲低下・注意力低下 |
バルプロ酸:強い催奇形性 トピラマート:妊娠中禁忌 |
| 三環系抗うつ薬 | アミトリプチリン ほか | 就寝前、少量開始 | 入眠不良、頸肩こり、頓用で寝不足になりがち | 眠気、口渇、便秘 | 授乳:概ね許容 (個別判断) |
※用法は一般的な目安。実際の投与は必ず医師の指示に従ってください。
CGRP注射薬:開始基準・種類・副作用・費用感
- 開始の目安:従来薬で効果不十分/忍容性に問題/発作頻度が高く生活に支障がある場合。
- 評価:原則3か月で反応性を判定し、継続/切替を決定します。
- 副作用:注射部位反応(赤み、痛み)、便秘など。
| 製品 | 薬価(1本/キット) | 患者3割負担の目安 | メモ |
|---|---|---|---|
| エムガルティ皮下注120mg (シリンジ) |
42,451円 | 約12,735円/回 | 初回2本→以後月1回 |
| エムガルティ皮下注120mg (オートインジェクター) |
42,638円 | 約12,791円/回 | 初回2本 |
| アジョビ皮下注225mg (シリンジ) |
39,090円 | 約11,727円/回 | 月1回 or 12週ごと3本 |
| アジョビ皮下注225mg (オートインジェクター) |
39,064円 | 約11,719円/回 | 同上 |
| アイモビーグ皮下注70mg (ペン) |
38,980円 | 約11,694円/回 | 月1回 |
※薬価は2025年4月公表値ベース。自己負担は概算で、診察料・在宅自己注指導料等は別途かかります。
経口CGRP(ゲパント)の位置づけ
経口CGRP受容体拮抗薬(例:アトゲパント)は、トリプタンが効きにくい/使いにくい方の選択肢です。国内状況は変動するため、受診時に最新情報を確認します。海外成績では便秘・悪心・疲労感などが報告されています。
ステップアップ&デ・エスカレーション(中止のめど)
- ステップアップ:12週で不十分なら用量調整→薬剤切替→併用(例:第一選択+CGRP)を行います。
- デ・エスカレーション:十分な改善が6〜12か月続けば、少量ずつ漸減し維持可能か評価します。
- 非薬物療法:睡眠・光/音・カフェイン量調整・運動・ストレス対処は継続しましょう。
周辺情報と関連ページ(妊娠授乳・前兆・月経・MOH・急性期)
- 妊娠・授乳中の片頭痛|安全な対処と使える薬:選べる薬が変わるため要確認。
- 前兆のある片頭痛:運転・危険作業の注意を含みます。
- 月経関連片頭痛:1週間前ルーティンで山を低くします。
- 薬剤使用過多による頭痛(MOH):予防と頓用回数管理を並走します。
- 片頭痛の急性期治療:トリプタン/レイボー/市販薬の使い分け【決定版】:発作時の正しい使い方。
- オンライン頭痛日誌:評価と回数の記録に必須です。
当院オンライン受診の目安
このような方はご相談ください
- 月2回以上の発作、または月3日以上の生活支障で予防を検討したい
- 予防薬を使っているが効果/副作用の折り合いがつかない
- CGRP注射/経口CGRPの適応や費用感を相談したい
初診後にカルテIDを発行し、オンライン頭痛日誌とともに12週評価の見立てを共有します。
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