専門医の頭痛ブログ

【頭痛専門医が解説】三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)総まとめ(群発頭痛/SUNHA/発作性・持続性片側頭痛)

目の奥がえぐられるように痛む「三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)」の種類や見分け方について、専門医が解説します。

【この記事のポイント】
  • ✅ TACsは「片側の激しい痛み」と「痛みと同じ側の自律神経症状(涙・充血・鼻水など)」がセットで起こる頭痛です。
  • ✅ 「群発頭痛」「SUNHA」「発作性片側頭痛」などがあり、主に「発作が続く時間」で見分けます。
  • ✅ 治療法がタイプごとに全く異なります。群発頭痛は酸素やトリプタン、SUNHAはラモトリギン、発作性片側頭痛はインドメタシンが特効薬となります。
  • ✅ 痛みが典型的な場合でも、脳の病気(二次性頭痛)を否定するために一度はMRI検査が推奨されます。

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)とは?

TACs(タックス、と読みます)は、Trigeminal Autonomic Cephalalgias の略で、日本語では「三叉神経・自律神経性頭痛」と呼ばれます。

これは、顔の感覚を脳に伝える「三叉神経」が興奮することで起こる激しい痛みと、それに伴って「自律神経」が刺激されて起こる症状(涙、目の充血、鼻水、鼻づまり、まぶたの下垂など)が、必ず片側の、しかも痛みと同じ側に現れる頭痛グループの総称です。

最も有名なのが「群発頭痛」ですが、ほかにもいくつか種類があります。これらは痛みの強さや性質が似ていることがありますが、治療薬がまったく異なるため、正しく分類(診断)することが非常に重要です。

TACsの見分け方:「発作時間」が最大のカギ

TACsの仲間たちを見分ける最大のポイントは、「1回の発作がどれくらい続くか」という時間です。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)でも、この発作持続時間によって分類されています。

ご自身の症状がどれに近いか、下の表で比べてみてください。スマホの方は横にスクロールしてご覧になれます。

頭痛のタイプ 1回の発作が続く時間 1日の発作回数(目安) 特徴的な治療薬
SUNHA
(SUNCT/SUNA)
1秒~600秒(10分)
(きわめて短い)
1日に数回~100回以上 ラモトリギン(抗てんかん薬)
発作性片側頭痛 (PH) 2分~30分
(短い)
1日に5回以上が多い インドメタシン(鎮痛薬)
群発頭痛 15分~180分(3時間)
(比較的長い)
1日に1~8回 純酸素吸入、トリプタン注射
持続性片側頭痛 (HC) 持続性
(基本的に痛みは絶え間ない)
常に痛む(強弱の波あり) インドメタシン(鎮痛薬)

(上記は ICHD-3 および 頭痛の診療ガイドライン 2021 に基づく分類です)

前川医師
頭痛専門医のひとこと

「秒〜分」「分〜30分」「15〜180分」—この時間のスケール感が道標になります。タイプごとに劇的に効く薬が違うので、まずはご自身の頭痛の型をきっちり見極めることが大切です。

それぞれの頭痛の詳しい解説

群発頭痛(Cluster Headache)

TACsの中で最も知られており、「えぐられるような」「きりで刺されるような」と表現されるほどの激烈な痛みが特徴です。痛みは15分から3時間ほど続き、じっとしていられず、部屋の中を歩き回ったり、頭を壁に打ち付けたくなったりするほどの興奮状態(落ち着きのなさ)を伴うことが多くあります。
1年のうち特定の期間(数週間〜数ヵ月)に集中して発作が起こる(群発する)ことから、この名前がついています。
詳しくは「群発頭痛」の解説ページもご覧ください。

SUNHA(サンハ) (SUNCT / SUNA)

最近ご相談が増えているのが、このSUNHA(スナ、またはサンハ)です。これは2つのタイプ(SUNCTとSUNA)の総称です。

最大の特徴は、発作時間が1秒から数分と非常に短いことです。電気が走るような、あるいは刺すような激痛が、1日に何十回、何百回と繰り返されます。

  • SUNCT (サンクト): 発作時に、痛みと同じ側の「結膜充血」と「流涙(涙が出ること)」が両方ともはっきりと現れるタイプです。
  • SUNA (スーナ): 発作時に、「結膜充血」か「流涙」のどちらか一方だけ、あるいは鼻水・鼻づまりといった他の頭部自律神経症状が主に出るタイプです。

群発頭痛や発作性片側頭痛とは治療薬が異なり、抗てんかん薬である「ラモトリギン」が第一選択となります。

発作性片側頭痛 (PH)・持続性片側頭痛 (HC)

この2つの頭痛は、群発頭痛やSUNHAとは異なり、「インドメタシン」という鎮痛薬(NSAIDsの一種)の服用で劇的に痛みが消失する(完全奏効する)という共通の特徴を持っています。

  • 発作性片側頭痛 (PH): 発作時間は2分〜30分と比較的短く、それが1日に5回以上と頻回に起こるのが特徴です。
  • 持続性片側頭痛 (HC): 名前(持続性)の通り、痛みは基本的に24時間絶え間なく続きます。痛みが中等度〜重度に強くなる「増悪期」を伴うことがあります。

診断のためにインドメタシンをテスト的に内服(インドメタシン・テスト)することがあります。

なぜ検査(MRI)が必要なの?

「こんなに典型的な症状なのに、なぜ検査が必要なの?」と思われるかもしれません。

TACsは、国際分類上「一次性頭痛(他に原因のない頭痛)」に分類されています。しかし、これらの頭痛とそっくりな症状を引き起こす「二次性頭痛」(脳下垂体の病変や動脈瘤、腫瘍などが原因)の可能性もゼロではなりません。

特にSUNHAや発作性片側頭痛、持続性片側頭痛では、下垂体周辺の病変が原因であったという報告も少数ながら存在します。そのため、典型的な症状であっても、一度は頭部MRI検査(特に下垂体などを含めた詳細な撮影)を受けて、隠れた原因がないことを確認しておくことが強く推奨されています。

日常生活で気をつけることと受診の目安

TACsの治療は、まずご自身の頭痛がどのタイプなのかを正確に診断することから始まります。

このような症状はありませんか?

  • 片側の目の奥に、じっとしていられないほどの激痛が走る
  • 痛みと同時に、涙が出たり、目が充血したり、鼻水が出たりする
  • 痛みの発作が、1日に何度も、あるいは毎日続いている
  • 市販の鎮痛薬を飲んでもまったく効かない

上記のような症状が当てはまる方は、ぜひ一度、頭痛専門医にご相談ください。ご自身の頭痛タイプを特定し、適切な治療につなげることが大切です。

また、鎮痛薬が効かないからといって市販薬を飲みすぎてしまうと、かえって頭痛をこじらせる「薬剤の使用過多による頭痛(MOH)」 を併発してしまう危険もありますので、自己判断での薬剤の連用は避けるようにしましょう。

頭痛専門医の写真(前川裕貴 医師)
この記事を書いた医師
頭痛センター長 頭痛専門医 前川裕貴

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