専門医の頭痛ブログ

【頭痛専門医が解説】妊娠時と授乳中の片頭痛|安全な対処と使える薬

妊娠中の頭痛に悩む30代日本人女性のイメージ

結論:妊娠・授乳中は安全第一。まずは非薬物で山を低く、薬は使うなら根拠のある範囲で・回数管理を。

頭痛専門医のひとこと
「飲めない」ではなく「何を・いつ・どのくらいならOKか」を決めるのがコツ。迷う時間が短くなり、痛みも短くできます。

※薬の「回数が増える」サインは薬剤使用過多(MOH)の芽。運用はこちらも参照。

これ、まず確認(自己チェック)

  • 睡眠不足・脱水・空腹・冷え・画面時間の増加が引き金になっていない?
  • 薬の使用が月10日(トリプタン等)/15日(単純鎮痛薬)を超えそう?
  • 妊娠高血圧・むくみ・視覚異常など、いつもと違う頭痛はない?

急性期:妊娠中の「安全度マップ」

推奨A=高推奨B=中推奨C=低/条件付き避ける=害の根拠あり
薬・方法妊娠中の位置づけ推奨度ポイント
アセトアミノフェン 第一選択 A 必要最小量・必要最短。カフェイン併用は1日200mg以内が目安。
メトクロプラミド ± ジフェンヒドラミン 悪心が強い時に有用 B アカシジア対策に抗ヒスタミンを少量併用することあり。
NSAIDs(イブプロフェン/インドメタシン等) 原則第二三半期のみ短期(〜48h程度) B 第一三半期は慎重、第三三半期は動脈管・羊水の問題で避ける
トリプタン(例:スマトリプタン) 必要時に選択肢 B 大きな催奇形リスクは示されていない。頻回使用は避け、MOH対策を。
エルゴタミン/ジヒドロエルゴタミン 禁忌 避ける 子宮収縮・胎盤血流低下の懸念。

急性期:授乳中の「安全度マップ」

薬・方法授乳中の位置づけ推奨度ポイント
アセトアミノフェン/イブプロフェン 第一選択 A 乳汁移行が少なく、臨床的に安全域が広い。
スマトリプタン 選択肢 B 乳汁移行はごく少量。通常は授乳継続可。心配なら投与後数時間の搾乳破棄も可。
メトクロプラミド 選択肢 B 授乳量が増えることがある。母体の副作用に留意。
アスピリン(常用量) 基本避ける 避ける 乳児のサリチル酸曝露を避けたい。※低用量アスピリンは別適応で主治医指示に従う。

くり返すなら(予防の選択肢)

妊娠中

位置づけ推奨度メモ
β遮断薬(プロプラノロール/メトプロロール等)選択肢B血圧/脈拍に留意。喘息がある場合は不可。
Ca拮抗薬(ベラパミル等)選択肢B便秘・徐脈など副作用管理。
アミトリプチリン選択肢B眠気・口渇などを説明の上で。
マグネシウム(経口)補助B〜C安全性は高いが便通に注意。効果は個人差。
ボツリヌス毒素A(慢性片頭痛)データ乏しいC妊娠中の安全性は不確実。原則は回避/個別判断。
トピラマート/バルプロ酸/カンデサルタン等避ける害の根拠口唇口蓋裂・神経発達影響/胎腎障害などの懸念。
CGRP関連抗体/ゲパント推奨せずC長半減期・ヒト妊娠データ不足。妊活前は中止検討(6か月目安)。

授乳中

位置づけ推奨度メモ
β遮断薬(プロプラノロール/メトプロロール)第一選択候補A〜B乳汁移行は少量。特段の注意なく使用される。
アミトリプチリン選択肢B乳児の傾眠など稀に。新生児期は少量から。
ベラパミル選択肢B母体の徐脈・便秘に留意。
トピラマート条件付きC乳汁移行あり。体重増減・傾眠など乳児観察を。
バルプロ酸条件付きC乳汁移行は少量だが乳児の肝機能等モニタ。
CGRP関連抗体データ乏しいC原則回避。必要時は個別判断。

まずは「整える」から(非薬物療法)

  • 睡眠の建て直し:同じ時刻に寝起き/昼寝は短く。
  • 水分・軽食:空腹・脱水の回避。カフェインは200mg/日以内の一定量。
  • 冷却/温め:こめかみは冷却、肩首は温めで筋緊張を緩める。
  • 頭痛体操:肩甲帯〜後頭下筋をやさしく動かして血流UP。解説PDFを見ながら、痛くない範囲で。
  • 画面時間の区切り:20-20-20(20分毎に20秒、6m先を見る)。

まとめ

妊娠・授乳中でも使える選択肢はあるので、「我慢」ではなく設計変更。非薬物で山を下げ、薬は必要なときに・正しく・回数管理

頭痛専門医の写真(前川裕貴 医師)
この記事を書いた医師
頭痛センター長 頭痛専門医 前川裕貴

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