片頭痛の発作が起きたその時に行う「急性期治療」の薬の選び方や正しいタイミングについて、専門医が解説します。
- ✅ 片頭痛の急性期は、「早め内服・適正量・回数管理」で山を低く短くできます。
- ✅ 主役はトリプタンとレイボー(ラスミジタン)です。
- ✅ 毎回2時間後の手応えを記録し、次の発作でのタイミング・剤形・併用を調整します。
「飲むのが遅れた」「2回目のタイミングが分からない」——ここで差がつきます。まずは服用タイミングと2時間評価を固定化しましょう。
急性期治療とは?(狙いと主な薬の全体像)
発作の山を低く・短くするために、その都度使う治療が急性期治療です。代表は次の5系統です。
- 単純鎮痛薬:アセトアミノフェン/ロキソプロフェン/イブプロフェンなど
- 複合鎮痛薬:鎮痛+鎮静+カフェイン等の配合
- トリプタン:片頭痛特異的薬(経口・点鼻・皮下注)
- ラスミジタン(レイボー®):血管収縮しない新しい急性期薬
- ゲパント:経口CGRP受容体拮抗薬(国内は現時点で未発売)
※予防薬は「発作を起こりにくくする」長期戦です。オーラの扱いは前兆のある片頭痛で解説しています。
正しい内服の仕方(タイミング・2時間評価・回数管理)
内服の3つのルール
- タイミング:痛みが軽〜中等度の立ち上がりで内服します。(オーラのみの場合は通常待機します)
- 2時間評価:①痛みゼロ/②痛み軽減/③MBS(吐き気などの最もつらい症状)が取れたかを確認します。
- 回数管理:トリプタン・レイボー・複合鎮痛薬は月10日以内、単純鎮痛薬は月15日以内に抑えます。(使い過ぎによる「薬剤使用過多による頭痛(MOH)」を回避するため)
当院では、評価と回数の記録をオンライン頭痛日誌を使用しています。こちらで直近30日間の発作頻度や強さなどを把握し、診療に役立てています。
内服の調整アルゴリズム(次回の作戦づくり)
- 頭痛が始まったら内服(軽〜中等度)。
- 2時間評価:痛みゼロ/軽減/MBS改善。
- 十分でない → 次回調整:
- タイミング前倒し(来やすい時間を想定)
- 剤形変更を検討
- 別のトリプタンへローテ/レイボーへ切替
- 再発が多い → 2回目投与(用法範囲)+NSAIDs併用
トリプタンとレイボーの違い(比較表)
| 薬 | 飲むタイミング | 2時間評価 | 安全性/注意 | 次の一手 |
|---|---|---|---|---|
| トリプタン | 頭痛が始まったらすぐ(軽〜中等度)。 オーラのみは待機。 |
痛みゼロ/軽減、MBS改善、再発の有無。 | 血管収縮作用あり。心血管リスクは慎重に。 | 無効→剤形変更(点鼻/皮下注)や別のトリプタン。 再発→追加投与+NSAIDs併用。 |
| レイボー(ラスミジタン) | 頭痛が出たら早め。 | 痛み/MBSの軽快と眠気・ふらつきを確認。 | 血管収縮なし。ただし服用後は運転/危険作業禁止。 | 無効→タイミング前倒し/用量最適化 or 他クラスへ。 |
トリプタン間の違い(製剤別の特徴)
同じ「トリプタン」でも速さ・強さ・再発のしにくさに個性があります。※用法・禁忌は各製剤で異なります。医師の指示に従ってください。
| 製剤 | 特徴(目安) | こんな時に |
|---|---|---|
| スマトリプタン皮下注 | 最速クラス。悪心・嘔吐でも可 | 立ち上がりが速い日/確実に早く切りたい日 |
| スマトリプタン点鼻 | 経口より速い | 悪心が強く飲めない、朝の強い発作 |
| リザトリプタン(経口) | 速さと効きのバランスが良い | 日常の“標準手”に |
| エレトリプタン(経口) | 鎮痛力が高め、再発が比較的少ない | 強い日・再発しやすい人 |
| ゾルミトリプタン(経口/OD) | 可用性が高い。外出先でも使いやすい | 携行性重視 |
| ナラトリプタン フロバトリプタン |
やや遅いが持続長め=再発抑制に寄与 | 再発が気になる日/月経関連片頭痛の山 |
一般鎮痛薬(OTC):単純 vs 複合の使い分け
「まずは市販薬から」のケースも多いため、違いを整理します。※商品名は代表例。添付文書を要確認。
| 区分 | 主成分 | 代表的な商品名 | 特徴/注意 |
|---|---|---|---|
| 単純鎮痛薬 | アセトアミノフェン | タイレノールA など | 胃にやさしい。妊娠中は医師判断で選択されることが多い。 |
| イブプロフェン(NSAIDs) | EVE A/EVEクイック、リングルアイビー など | 効きが速め。胃腸障害・腎機能・喘息に注意。 | |
| ロキソプロフェン(NSAIDs) | ロキソニンS など | 鎮痛力が強め。空腹時は避ける。消化性潰瘍歴などは要相談。 | |
| 複合鎮痛薬 | イブプロフェン+アリルイソプロピルアセチル尿素+無水カフェイン 等 | EVEクイックDX など | 鎮静成分やカフェインを配合。眠気・連用によるMOHに注意。 |
| ナプロキセン+ブロムワレリル尿素+無水カフェイン 等 | ナロンエース など | 持続がやや長め。鎮静・カフェイン配合に留意。 | |
| ピリン系成分含有(イソプロピルアンチピリン 等)+カフェイン など | セデス系 など | ピリンアレルギー既往は厳禁。発疹など過敏反応に注意。 |
市販薬の“安全運転”チェック
安全に使うためのチェック
- 回数管理:単純鎮痛薬は月15日以内、複合鎮痛薬は月10日以内(MOHの原因は複合鎮痛薬が最多)。
- 基礎疾患:消化性潰瘍・腎機能障害・心不全・喘息(アスピリン喘息)・抗凝固療法中は自己判断でのNSAIDs連用を避ける。
- 妊娠/授乳:妊娠後期のNSAIDsは避ける。選択や用量は主治医と相談。
- 悪化因子:飲酒/脱水/空腹は悪化因子です。まず整えましょう。
ゲパント製剤について(将来の選択肢)
ゲパント(経口CGRP受容体拮抗薬)は、トリプタンが効きにくい/使いにくい方の急性期の選択肢です。国内では本稿執筆時点で未発売ですが、最新状況は再診時にご案内します。
やってはいけないこと
- 効かないからと回数を増やす・連投する(MOHの温床となります)
- 空腹・脱水・寝不足で放置する(山が高く長くなります)
- レイボー服用後に運転・高所作業を行う
妊娠・授乳と急性期の考え方
- 妊娠中:時期により使える薬が変わるため主治医判断となります。まずは非薬物療法を優先します。
- 授乳中:薬によって母乳中移行が異なります。個別に調整します。
※オーラの扱いは前兆のある片頭痛で解説しています。
当院オンライン受診の目安
このような方はご相談ください
- 月に2〜3回以上の発作で生活・仕事に支障がある
- 薬を持っているのに効きが安定しない/再発が多い
- 月経関連・天気痛などパターンに合わせて設計したい
評価と回数の記録はオンライン頭痛日誌で可視化し、次回診療で作戦会議を行います。
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