専門医の頭痛ブログ

【頭痛専門医が解説】CGRP製剤(注射薬)のやめ時はいつ?中止後の再燃リスクと最新知見

片頭痛の新しい予防注射薬(CGRP製剤)について、「いつまで続ければいいの?」「やめ時はいつ?」と疑問に思っていませんか?

エムガルティ、アジョビ、アイモビークといったCGRP製剤は、片頭痛の回数を劇的に減らしてくれる、とても心強いお薬ですよね。治療がうまくいって、「もう大丈夫かも?」と感じ始めると、次に気になるのが「やめ時」です。

この記事では、CGRP製剤をいつまで続けるべきか、特に「1年くらいでやめたらどうなるの?」という疑問について、最新の研究データを基に頭痛専門医が優しく解説します。

【この記事のポイント】
  • ✅ CGRP製剤を1年で中止すると、残念ながら高い確率で症状が元に戻る(再燃する)というデータがあります。
  • ✅ 最新の研究では、治療を「3年間」続けると、やめた後の再燃率が劇的に下がり、片頭痛の体質自体がリセットされる可能性が示されています。
  • ✅ 「やめ時」は、コスト面も含めて人それぞれです。自己判断で中断せず、主治医とじっくり相談することが何よりも大切です。

CGRP製剤(注射薬)とは? – 片頭痛治療の大きな進歩

CGRP製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーク)は、片頭痛の「火種」とも言える「CGRP」という物質の働きをピンポイントで抑えるために開発されたお薬です。月に1回(または3ヶ月に1回)、ご自身で注射またはクリニックで注射することで、片頭痛発作の回数や程度を大きく減らす効果が期待できます。

従来の予防薬(飲み薬)が効きにくかった方や、副作用で続けられなかった方にとっても、新しい選択肢となりました。特に、長年慢性頭痛に悩んでいた方や、鎮痛薬の使いすぎ(MOH)から抜け出せた方も多く、片頭痛治療における大きな進歩と言えます。

もし「1年」で治療をやめたらどうなるの?

治療が順調に進み、頭痛のない生活が1年ほど続くと、「もう注射がなくても大丈夫かもしれない」と考えるのは自然なことです。では、実際に1年程度でCGRP製剤をやめた場合、どうなるのでしょうか。

残念ながら、「1年間の治療で安定しても、中止すると高い確率で症状が元に戻ってしまう」ということが、いくつかの臨床研究で示されています。

例えば、ある研究(Case Study 1)では、1年間CGRP製剤を使って「慢性片頭痛」や「お薬の使いすぎ(MOH)」から回復した患者さんが治療をやめたところ、わずか3ヶ月後には約半数(42%〜46%)の方が元の重い状態に戻ってしまったと報告されています。

また、別のある研究(Case Study 3)では、「頭痛が半分以下になる」という治療の成功ラインを維持できた人は、やめてから3〜4ヶ月後には、わずか10%程度しかいなかった、という結果も出ています。

データが示す「1年中止」の現実

これは、CGRP製剤が非常に強力である一方で、その効果は「片頭痛の火種(CGRP)を押さえ込んでいる間」が中心であり、1年程度ではまだ頭痛の「根本的な体質」までは変わりきっていない可能性を示唆しています。

実際、症状が元に戻ってしまい、臨床的に耐え難くなったため、結局3ヶ月ほどで約9割の患者さんが治療の再開を選んだ、というデータもあります。

なぜ「1年で中止」が議論されてきたの?

「それなら、なぜ1年でやめる話が出てくるの?」と疑問に思うかもしれませんね。

これには、いくつかの理由があります。

  • 従来の飲み薬の慣習: 以前から使われている片頭痛の予防薬(飲み薬)では、「半年から1年ほど続けて、調子が良ければ一度お休みしてみましょう」という考え方が一般的でした。CGRP製剤が登場した当初は、この考え方が準用されていました。
  • 経済的な負担: CGRP製剤は非常に効果が高い反面、お薬代が高額になるという現実があります。特に日本では、経済的な理由から「1年を区切りに」と考える患者さんや医師がいたことも事実です。
  • 長期データが未知だった: 登場して間もない頃は、「1年以上続けたらどうなるか」についての十分なデータがまだありませんでした。

しかし、最近になって、この「1年ルール」を見直すきっかけとなる、非常に重要な研究結果が出てきたのです。

最新研究が示す「3年継続」という新しい可能性

「1年でやめると元に戻りやすいなら、もっと長く続けたらどうなるの?」

この疑問に答えてくれたのが、イタリアで行われた「I-GRAINE研究」という最新の研究です。この研究は、CGRP製剤の「やめ時」に関する私たちの理解を大きく変える可能性を秘めています。

この研究では、治療期間を「1年」「2年」「3年」と変えて、それぞれ中止した後にどれくらい症状が戻ってしまうか(再燃率)を比較しました。その結果は驚くべきものでした。

治療期間が長いほど、やめた後も安定する!

以下の表は、治療をやめてから1ヶ月後に「慢性片頭痛(月の半分以上頭痛がある状態)」に再燃してしまった人の割合を示しています。

治療を続けた期間 中止1ヶ月後の再燃率(慢性片頭痛)
1年で中止 67.7%(約3人に2人)
2年で中止 18.0%
3年で中止 2.3%(ほぼゼロ!)

※I-GRAINE研究(21)のデータを基に簡略化

この結果が示すように、1年でやめると約7割の人がすぐに再燃してしまうのに対し、3年間しっかり治療を続けると、やめた後も再燃する人はわずか2.3%にまで激減していたのです。

「疾患修飾」:片頭痛の体質リセット?

なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?

研究者たちは、CGRP製剤を「3年間」という長期間にわたって使い続けることで、単に症状を押さえ込むだけでなく、片頭痛を引き起こしやすい「脳の過敏な状態」そのものをリセットし、修復する、いわば「疾患修飾(しっかんしゅうしょく)」という根本的な体質改善が起きるのではないかと考えています。

片頭痛、特に慢性片頭痛は、長年にわたって脳が「頭痛が起きやすい状態」に”クセ”づいてしまった状態とも言えます。この”クセ”をリセット(脱感作)するには、CGRPという火種を1年程度ではなく、3年という期間、持続的に抑え込むことが重要なのかもしれません。

この考え方に立てば、「1年での中止」は、せっかく始まった根本的な体質改善のプロセスを、途中で止めてしまう「時期尚早」な判断である可能性があるのです。

もし症状が戻ってしまったら?

「もし一度やめてみて、やっぱり症状が戻ってしまったらどうしよう…」と不安になるかもしれませんね。でも、安心してください。

CGRP製剤は、一度中止して再燃した場合でも、治療を再開すれば、初回と同じように良好な効果が得られることがわかっています。

「やめる」か「続ける」かの選択は、決して一方通行ではありません。もし再燃しても、また治療を再開してコントロールを取り戻すことは可能ですので、過度に心配しないでくださいね。

あなたにとっての「やめ時」は?

ここまで、CGRP製剤の「やめ時」に関する最新のデータを見てきました。

  1. 1年でやめると、高率で再燃(元に戻る)リスクがある。
  2. 3年続けると、再燃率が劇的に下がり、「疾患修飾(体質リセット)」の可能性がある。

この事実は、CGRP製剤との付き合い方を考える上で非常に重要です。しかし、このお薬には「薬剤費(コスト)」という現実的な問題も常につきまといます。

「3年が良いと分かっていても、経済的に続けるのが難しい…」 「今は調子が良いし、一度やめてみたい」 「妊娠や出産を考えているので、やめ時を相談したい」

お一人おひとりの状況や価値観は異なります。CGRP製剤の「やめ時」に、すべての人に当てはまる「正解」はありません。

大切なのは、これらの最新の医学的データ(再燃リスク vs 疾患修飾の可能性)と、ご自身の経済的な状況やライフプランを天秤にかけ、主治医と「共同で意思決定(Shared Decision-Making)」することです。

前川医師
頭痛専門医のひとこと

CGRP製剤の登場は、片頭痛治療を「発作を抑える」段階から、「発作のない生活を目指す」段階へと大きく進めました。そして今、「片頭痛の体質そのものをリセットする(疾患修飾)」という、次のステージが見え始めています。

「1年でやめると再発しやすい」「3年続けると寛解(かんかい)を維持できるかもしれない」というデータは、私たち医師にとっても非常に重要な情報です。治療のゴールをどこに設定するか、コストの問題とどう向き合うか。ぜひ、自己判断で中断せずに、あなたの主治医とじっくり話し合ってみてくださいね。(ちなみに、新しいゲパント系の飲み薬も出てきており、治療の選択肢はさらに広がっていますよ)

頭痛専門医の写真(前川裕貴 医師)
この記事を書いた医師
頭痛センター長 頭痛専門医 前川裕貴

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